心療内科・精神科・一般内科
宮木医院リオムメンタルクリニック
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電話受付は開院日の診療時間帯のみで、混雑のため繋がりにくくなることがありますことをご了承願います。
世界保健機関WHOの定義によると、メンタルヘルス(精神的健康)とは単に精神疾患でない状態を意味するのではなく、各自が自分の能力を発揮でき、日常のストレスに対処でき、生産性が高い状態で働けて、コミュニティに貢献できる良い状態を意味します。
学校や職場での不適応やうつ、睡眠障害(不眠症)、発達障害、依存症などの問題を薬物療法だけに頼らず「社会的処方」を意識し、良い状態で生活や仕事ができるお手伝いができればと思っています。
当事者ご本人の受診はもちろん、当事者を支えるキーパーソンとしてのご家族のメンタルヘルス維持は重要ですので、ご家族だけの受診やカウンセリングもお受けしますので、遠慮なくご相談ください。
学校への行きづらさ(生きづらさ)や学業不振、不登校、職場のメンタルヘルス、依存症再発予防について、複数のカウンセラーら(いずれも公認心理師の国家資格保有)とともに重点的に取り組んでいます。
(ただし当院は診療体制の充実した公的医療機関ではなく、対応できる検査や疾患は限られるため、専門性から外れる場合や相談内容・患者さんの重症度によっては治療をお受けできないこともありますので、あらかじめご了承ください)
発達障害を職場でささえる(東京大学出版会)、働きやすい職場づくりのヒント(金剛出版)、社会と健康(東京大学出版会)など、著書や論文多数。
大学の校医(東洋大学)、企業の産業医(GSユアサ、ヤフー、MUFGなど)として学生や働く人のメンタルヘルスに長年従事し、障害の有無によらず本来の力を発揮できるような実践的活動を心がけています。
産業医として複数の企業の社員の方々のメンタルヘルスに携わり、また大学の校医としても長く学生の皆さんに関わってきましたが、その中でしばしば話題になるのが、部活動や社会人チーム、あるいは個人で継続しているスポーツにおける「心の状態」の問題です。仕事や学業のストレスについてはご相談いただく機会が多いのですが、スポーツにおける緊張やプレッシャー、思うようにいかないことへの焦りについても、実はよく似た構造の悩みとして語られることが少なくありません。
私自身、学生時代は水泳部に所属していましたが、中年以降はゴルフに親しむようになりました。腕前は「下手の横好き」といったところですが、コースやレンジに向かうたびに、「なぜ練習場ではうまく打てるのに、コースに出ると同じようにいかないのか」ということを、プレーヤーとしても、また医師としても、繰り返し考えさせられてきました。今回は、スポーツ全般におけるメンタルヘルスの重要性を整理したうえで、後半では特にゴルフについて、近年の研究知見を踏まえながら少し詳しく考えてみたいと思います。

かつてスポーツの世界では、心の問題が「精神力が足りない」という個人の資質に帰されることもありました。しかし現在は、不安や落ち込みを感じることと、競技者としての努力や能力とは別の問題として考えます。国際オリンピック委員会(IOC)は2019年の合意声明で、競技者のメンタルヘルスを身体の健康と切り離さずに捉える必要性を示しました[1]。
頻度については、数字の読み方にも注意が必要です。現役のエリート選手を対象にした2019年の系統的レビュー・メタ解析では、調べた問題の種類によって、症状を報告した割合はアルコールの問題で19%、不安・抑うつ症状で34%などと異なりました。これは選手全員に病気があるという意味ではなく、用いた質問票、競技種目、国や調査時期によって推定値が変わるという意味でもあります[2]。
IOCが2026年に発表した更新版の合意声明では、定期的な心の健康状態の確認に加え、負傷、競技環境、進路の変化、指導者との関係など、選手を取り巻く状況にも目を向けることが勧められています。心の問題を本人の「弱さ」だけで説明せず、適切な支援につなげるためです[3]。
眠れない夜が続けば、翌日の集中や判断にも影響が出るかもしれません。負傷して思うように練習できないときには、競技成績への不安が強まることもあります。反対に、競技の成績だけを見ていると、本人が感じているつらさを見落とすおそれがあります。メンタルヘルスとパフォーマンスは関係しますが、同じものではありません。スコアが良い日にも心の不調はありえますし、スコアが悪いからといって病気とは限りません[1][3]。
臨床の場で私が重視したいのは、結果そのものよりも、いつから、どの場面で、どの程度困っているかという経過です。たとえば「試合前だけ少し眠りにくい」のか、「練習のない日にも眠れず、仕事や学業に支障が出ている」のかでは、必要な支援は異なります。まずは競技と日常生活の両方について、落ち着いてお話を伺うことが出発点になります。IOCの更新版声明も、質問票によるスクリーニングと診断を区別し、必要な方を臨床評価につなげることを勧めています[3]。
近年注目されている考え方の一つに、「心理的柔軟性」があります。不安や緊張、ネガティブな考えを無理に消そうとするのではなく、それらがあることに気づきながら、自分にとって大切な行動を選ぶ力、と表現できるでしょう。たとえば「外したらどうしよう」という考えが浮かんでも、その考えと戦い続ける代わりに、呼吸をひとつ感じ、狙うラインを確認し、決めていた手順に戻る。緊張が消えることを、次の行動の条件にしないのです。
この視点を重視する心理療法の枠組みが、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)です。国内には、大学生アーチェリー選手1名にACTを応用し、競技成績などの変化を検討した事例報告があります。ただし、これは13回の介入を行った単一事例であり、同じ結果が誰にでも生じるとまでは言えません[4]。
より規模の大きい研究として、陸上競技とバスケットボールの選手95名を対象に、6週間・6回のスポーツ向けACTプログラムを待機群と比較したランダム化比較試験があります。介入群ではストレス症状の減少、心のウェルビーイングと心理的柔軟性の改善が見られました。一方、抑うつ症状の有意な改善や、ゴルフのスコア改善を示した研究ではありません。何に効果が示され、何はまだ分からないのかを分けてお伝えすることが、科学的な説明には欠かせないと思います[5]。
ここからは、中年以降に始めた不慣れなゴルフを例に、もう少し具体的な研究知見をご紹介したいと思います。ゴルフは、一つのショットと次のショットの間に時間的な余白があり、その間、良い結果も悪い結果も、意識の中に残り続けやすいという特徴を持つスポーツです。また、対戦相手と直接ぶつかり合う競技ではなく、自分自身のスコアやプロセスと向き合う「自己対峙型」の側面も、独特の心理的挑戦を生み出していると感じています。
だからといって、ゴルフの悩みがすべて「こころ」から生じるわけではありません。視線、身体の動き、練習内容、疲労、けが、睡眠、競技環境――いくつもの要素を一緒に考えることが、かえって問題を整理する近道になる場合があります[3]。
ゴルフに取り組む方であれば、「イップス」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。パッティングなど、これまで行えていた精密な動作で、意図しない震えや急な動き、硬直が生じ、思うように実行できなくなる現象を指します。
海外の競技志向ゴルファーを対象とした研究では、対象のハンディキャップ等の条件によって、イップスを経験した割合が32.5~47.7%と推定されました。ただし、これは選ばれた競技者集団での自己申告を含む推定値であり、一般のゴルファー全体に当てはめることはできません[6]。
日本のプロゴルファーを対象とした調査では、回答者1,271名のうち35.4%が、競技生活の中でイップスを経験したと回答しています。ただし、こちらも診察で一人ずつ診断を確定した数字ではありません。研究では経験年数との関連も示され、「本人がイップスと感じている動き」の中には、さまざまな状態が含まれうると考えられます[7]。
イップスについての系統的レビューは、心理的側面だけでなく、神経・筋の働きや動作の学習など、複数の視点から理解する必要性を示しています[8]。したがって「気合いが足りないから」「完璧主義だから」と、原因を一つに決めつけないことが大切です。
最近では、イップスのあるゴルファーにEMDRを行った小規模な症例集積でも改善が報告されています。しかし、対照群のない研究のため、EMDRがイップスに有効な治療法だと確立されたわけではありません[9]。希望の持てる報告ほど、その限界も同じようにお伝えしたいと思います。
ゴルフ以外の書字や食事の動作にも症状が出る、安静時にも震える、急に悪化する、明らかな左右差がある、しびれや力の入りにくさを伴う――そのような場合には、競技上のプレッシャーとしてのみ扱わず、医師に相談していただくことが重要です[8]。
もう一つ、ゴルフの科学において重要な知見が、「クワイエットアイ(Quiet Eye)」と呼ばれる視線制御です。パッティングでは、バックスイングの開始前から、ボールの上部や後方などに置かれる最終的な視線の安定を指します。
先行研究をまとめた論考では、熟練ゴルファー(ハンディキャップ4未満)の平均は約2.5~3.0秒、それより技能水準が低い集団では約1.0~1.5秒と報告されています。ただし、計測方法や課題によって数字は変わり、「何秒見れば必ず入る」という合格基準ではありません[10]。
視線の安定を訓練する意義については、より直接的な研究もあります。エリートゴルファー22名を二つの群に分けた研究では、クワイエットアイ訓練群は、プレッシャー下の実験で対照群より多くのパットを成功させました。実際のラウンドでも、訓練前と比べて平均約1.9パット少ない結果でした。ただし、少人数の研究であり、この改善幅をすべてのゴルファーに約束するものではありません[11]。
さらに、複数競技を対象とするメタ解析でも、視線訓練とパフォーマンスの関連が支持されています。一方、そこに含まれる競技や課題はさまざまで、効果量をそのまま個々のパット成績へ換算することはできません[12]。私には、「目線をどこに置くか」という具体的で練習可能な手がかりが見つかること自体にも、実践上の価値があるように思えます。
ではなぜ、練習場ではうまくいくショットが、プレッシャーのかかる場面では同じようにいかなくなるのでしょうか。この現象は「チョーキング(choking under pressure)」として、スポーツ心理学で研究されてきました。
熟練した動作は、毎回「まず肘をこうして、次に手首をこうして」と言葉で確認しなくても行えるようになります。ところがプレッシャーを感じると、その細部を意識的に監視し直してしまい、かえって動作の流れを乱す場合があります。ゴルフのパットを用いた研究は、この「明示的モニタリング」という説明を支持しています[13]。
ただし、原因がいつも「考えすぎ」だけとは限りません。不安によって必要な情報から注意がそれる場合もありますし、技術がまだ習得の途中なら、動作を意識して練習することが役立つ場合もあります。技術を磨く時間と、本番で動作を実行する時間を分けて考えるのが現実的でしょう。運動学習を概観した研究でも、身体の各部位そのものより、動きが環境にもたらす結果へ注意を向ける「外的フォーカス」が、多くの課題で有用と報告されています[14]。
ですから、コース上で「フォームを考えてはいけない」と新たな禁止事項を増やすのではなく、「今回はカップの左縁を見よう」「狙った地点へのボールの転がりを思い描こう」と、必要な手がかりを一つ選ぶ。その程度のシンプルさが、かえって助けになるのではないかと思います[13][14]。
イップス、クワイエットアイ、チョーキングという三つの研究領域に共通しているのは、競技中の困りごとを「気持ちだけの問題」に還元しない視点です。注意、視線、動作の自動化、身体の状態、これまでの経験――それぞれを観察し、必要に応じて練習方法や支援を調整できます[8][12][13]。
たとえばミスの直後なら、「悔しい」という気持ちをすぐに消す必要はありません。悔しさに気づき、ひと呼吸おいて、次の一打の目標を確かめる。ACTでいう「受け入れながら、今することへ戻る」という考え方と、プレショット・ルーティンの実践は、こうした場面で接点を持ちます。ただし、これは研究成果を手がかりにした実践的な組み合わせであり、当院独自の一連のプログラムとしての効果が、すでに臨床試験で実証されたという意味ではありません[5][11]。
ここで一つ、大切にしておきたい区別があります。競技に取り組む方が、自分の心身の反応に気づき、注意の向け方やルーティンを学ぶことは、競技生活を支えるコンディショニングです。それだけで病気の診断や治療を受けたことにはなりません。
一方、不眠、気分の落ち込み、強い不安、食欲の変化などが続き、ゴルフのない日にもつらい、仕事や学業、家庭生活に影響が出ている場合には、競技上のプレッシャーとしてのみ扱わず、医療的な評価を考えます。症状が「何週間続いたか」は大切な情報ですが、期間だけで機械的に振り分けることはできません。本人の苦痛や生活への影響も含めて判断する必要があります。厚生労働省も、落ち込みや興味の低下などが続く場合には専門家への相談を勧めています[15]。
現在、当院ではスポーツに取り組む方への、より具体的な支援のあり方を検討しています。仮に「RIOSMART(リオスマート)」というプログラムを提供する場合も、競技パフォーマンス向上を目的とする支援と、医師が診察のうえ治療を必要と判断した方への保険診療は、切り分けて考えます。
また、心の不調があるからといって、必ず競技をやめなければならないわけでもありません。IOCの2026年の声明は、適切な支援や治療を受けながら安全に競技を続けられる方がいる一方、状態によっては活動の調整が必要な場合もあるとしています。競技を大切にすることと、健康を優先することを、対立する二者択一にしない姿勢が大切だと思います[3]。
技術や体力の向上と同じように、心の状態に目を向けることも、スポーツを長く続けるうえで大切な要素の一つだと考えています。緊張している自分に気づくこと。視線や注意の向け方といった、練習できる手がかりを見つけること。結果だけでなく、取り組みの過程にも目を向けること。そして、眠れない、つらい、競技以外でも不調が続くときには、ためらわず相談すること。
水泳からゴルフへと種目を変えても、結果を気にかけ、思うようにいかない自分に戸惑うという心の働きには、共通するところがあると感じます。だからこそ「もっと強い心を持たなければ」と一人で抱え込むよりも、何が起きているかを一緒に整理するところから始めてよいのではないでしょうか。
当院では今後も、競技を支える支援と必要な医療の両方に目を配りながら、スポーツをする人のこころについて考えていきたいと思います。
リトルウッドの奇跡の法則も参考になります。数学者ジョン・リトルウッドが提唱したこの考え方によれば、人が起きている時間に一秒あたり一つの出来事を経験すると仮定すると、一ヶ月ほどの期間で百万分の一という低確率の出来事に一度は遭遇する計算になり、こうした「奇跡」は統計的にはむしろ必然的に起こり得るとされています[3]。物理学の側からの評価も見ておく必要があります。量子論的な非決定性はミクロな統計現象であり、マクロな「意味ある偶然」を直接裏付けるものではなく、多くの物理学者はこれを詩的な比喩とみなしています。占星術統計についても、仮説に合うようサンプルが事後的に調整された疑いが指摘されており、ラインのESP実験も感覚的な手がかりの漏洩や選択的報告といった、この種の研究に共通する課題を残しています。これらの検証結果は、共時性を科学的な事実として証明する道が非常に険しいことを示していますが、だからといって体験そのものの持つ心理的な重みが失われるわけではありません。
この考え方は、実際の臨床場面ではグリーフケア(死別への支援)に応用されることがあります。故人が好きだった鳥が現れたり、特定の曲がよく流れたりといった「意味深い偶然」を、治療者が否定も肯定もせず、まずは丁寧に耳を傾けること。心理学者デニス・クラスらが提唱した「継続する絆(continuing bonds)」という考え方とも重なりますが、故人との心理的なつながりを保つことが適応的であるという理解のもとで、こうした偶然を絆の再構成の材料としてお手伝いすることができます[4]。
私自身、2024年の能登半島地震の折から、被災地でのボランティア活動に継続的に関わらせていただいてきました。復興が思うように進まない土地で、それでも人と人が支え合い、時には思いがけない再会や巡り合わせに背中を押されながら前を向いていく方々の姿を、何度も目にしてきました。また、能登の食文化を多くの方に知っていただきたいという思いから、米と麹からだけからなる甘酒や麹調味料を紹介する小さな復興カフェのような場づくりにも携わっています。麹がゆっくりと時間をかけて甘みや旨みを引き出していく様子は、人の心の傷や意味づけも、すぐに答えが出るものではなく、じっくりと熟していくものなのだろうと、そうした活動の中で感じることが多くあります。
進行がんの患者さんなど、人生の意味を見つめ直す過程においても、不思議な符合を人生の物語を編み直す手がかりとして扱う、ロゴセラピー(意味中心療法)の枠組みでの活用も報告されています。ロゴセラピーは、精神科医ヴィクトール・フランクルが創始した心理療法で、どのような苦境や逆境においても「自らの人生の意味」を見出すことによって、心の苦しみを和らげ、生きる力を引き出すことを目的としています[5]。この理論には三つの柱があるとされます。
第一に「意味への意志」です。人間は本質的に、自分が生きる意味や目的を求める存在であるという理解が基盤にあります[5]。第二に「人生の意味」です。人生は常にその人固有の問いを投げかけており、何かを成し遂げること、誰かを深く愛すること、そして避けられない苦難にどう向き合うかという営みの中に、意味が見出されるとされます[5]。第三に「意志の自由」です。どんな環境や運命に置かれても、人間には、それに対してどう向き合い、どんな態度をとるかを選択する最後の自由が残されている、という考え方です[5]。
この「意志の自由」という視点は、当院が診療の中で大切にしている「ネガティブ・ケイパビリティ(答えの出ない事態に耐える力)」という考え方とも通じるところがあるように感じています。すぐに答えの出ない苦難や不確かな状況の中にとどまり続けながら、そこにどのような態度で向き合うかを自分自身で選び取っていく。共時性という「意味ある偶然」への向き合い方も、こうしたロゴセラピーの視点に照らすと、答えを急いで決めつけるのではなく、その人自身が納得できる意味を、時間をかけて見出していく過程の一部として理解することができるのではないかと思います。
ロゴセラピーという心理療法が持つ独特の説得力は、その誕生の背景と深く結びついています。創始者であるヴィクトール・フランクルは、精神科医として活躍していた最中にユダヤ人としてナチスの強制収容所に送られ、家族の多くを失うという、想像を絶する体験をされました[6]。ご自身の体験を綴った『夜と霧』の中で、フランクルは、極限状況の中でも人間らしさを保ち続けられた人々と、内面が崩れてしまった人々との違いは、その人が置かれた状況そのものではなく、その状況にどのような意味を見出せるかにあったと述べています[7]。この、命の危機と隣り合わせの経験の中から紡ぎ出された理論だからこそ、ロゴセラピーは人生の挫折や喪失感に直面する危機的な状況において、進むべき方向を示してくれる羅針盤のような役割を持ち得るのだと思います[8]。
フランクルは、こうした理論を臨床の場で実際に使えるものにするため、いくつかの具体的な技法も提唱しています。ここでは、代表的な三つの技法をご紹介します。
一つ目は「逆説的意図」という技法です。人は何かに失敗することを恐れるあまり、かえって緊張が高まり、その予期不安そのものが失敗を呼び込んでしまうことがあります。この技法では、あえて自分が恐れていることを「やってみよう」と意図することで、不安と自分との間に少し距離を置き、緊張をゆるめていきます。
二つ目は「反省除去」という考え方です。「なぜ自分はこんなにダメなのだろう」というように、自分自身の欠点や不安にばかり意識が向いてしまうと、その不安がさらに強まってしまうことがあります。反省除去では、そうした自己への過剰な注目を、外の世界にある目的や、誰か他の人への貢献へと少しずつそらしていくことを目指します。
三つ目は「ソクラテス的対話」です。カウンセラーが答えを一方的に教えるのではなく、対話を重ねる中で、相談者ご自身の中にすでに存在している「意味」に、ゆっくりと気づいていただけるよう促していく進め方です。これは、当院が診療の中で大切にしている、答えを急がずに患者さんご自身の言葉を待つという姿勢とも、とても近いものだと感じています。
こうした技法は、いずれも人生の意味を外から与えるのではなく、その人自身の内側にすでにある力を、そっと引き出していくことを目指している点が共通しています。共時性という「意味ある偶然」に出会ったときも、それをどう受け止めるかは最終的にはその人自身の選択に委ねられるべきものであり、こうしたロゴセラピーの視点は、日々の診療における一つの心強い手がかりになっているように思います。
ただし、ここで一つ、臨床的にとても重要な留意点があります。無関係な事象に過剰な関連性を見出す体験(アポフェニー)は、統合失調症の発病初期にも見られる現象であり、共時性という枠組みを安易に用いることが、結果として妄想を強化してしまうリスクもあるのです。そのため、日常生活や社会機能が損なわれていないか、「単なる偶然かもしれない」と修正できる余地があるか、体験に伴う情動が肯定的で統合的なものか、それとも恐怖や切迫感を伴う侵入的なものかといった点を、丁寧に見極める必要があります。治療者が「これは共時性です」と安易にラベルを貼ることの危険性を常に念頭に置き、何よりも患者さんの現実検討能力をお守りすることを最優先に考えるべきだと思います。
共時性論は、科学の言葉だけで説明し切るには、まだ多くの課題を残した理論だと言えるでしょう。それでも、人がどのように人生の意味を見出し、出来事を自分の物語として編み直していくのかという視点に立つと、この理論には臨床の場で慎重に活かせる余地が確かにあるように思います。犬と散歩をしていて出会う何気ない景色や、能登の復興カフェで甘酒や麹調味料を手に土地の方々と語り合う時間の中にも、そうした「意味の巡り合わせ」を感じることがしばしばあります。不思議な偶然に出会ったとき、それを科学的な真偽だけで判断してしまう前に、その方にとってどのような意味を持つ出来事だったのかに、まず静かに耳を傾けてみる。そうした関わり方が、診療の中で患者さんの心に寄り添う一つの糸口になるのではないかと感じています。
[1] Jung, C. G. & Pauli, W. (1952). Naturerklärung und Psyche: Synchronizität als ein Prinzip akausaler Zusammenhänge. Rascher Verlag.
[2] Jung, C. G. Synchronicity: An Acausal Connecting Principle. Wikipedia「Synchronicity」項目を参照。
[3] Littlewood's law. Wikipedia「Littlewood's law」項目を参照。
[4] Klass, D. (2023). Continuing Bonds in the Existential, Phenomenological, and Cultural Study of Grief: Prolegomena. OMEGA - Journal of Death and Dying.
[5] 今こそ、生きる意味を見出す力〜フランクル:ロゴセラピー. mh-mental.jp; ヴィクトール・フランクルとロゴセラピー. donmainet.com
[6] Frankl, V. E. 夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録. みすず書房。
[7] 夜と霧を読んで. hodanren.doc-net.or.jp
[8] アウシュビッツを生き抜いた精神科医の言葉「夜と霧」で考える. 東洋経済オンライン
私たちは、日々の生活のなかで、不安や緊張、悲しみ、怒り、疲れなど、さまざまな感情を経験します。学業や職場での不適応、生きづらさに向き合っておられる方の診療をしていると、こうした感情の波にどう対処すればよいか分からず、疲弊してしまっている方に多く出会います。ときには、気持ちが大きく揺れ動き、自分ではどうしたらよいのか分からなくなることもあるかと思います
そのようなときに役立つ考え方の一つが、「コーピング・スキル」です。コーピングとは、困難な状況やストレスに対して、自分なりに対処していくことを指します。大切なのは、つらい気持ちを無理に消そうとすることではありません。その時々の自分の状態に合わせて、少しだけ楽になれる方法を選んでみることです。
以下では、そのための具体的な方法を整理した「7種類のコーピング・スキル」をご紹介します。

つらいことについて考え続けていると、気持ちがますます苦しくなることがあります。そのようなときには、いったん別のことに意識を向けてみる方法があります。
本を読む、音楽を聴く、映画を見る、人と話す、パズルをするなど、無理なく取り組めることで構いません。問題から一時的に距離を置くことは、問題から逃げることとは少し違います。心と頭に休憩を与えることで、あとから少し違った見方ができることもあります。
不安が強いときには、まだ起きていない未来のことを考え続けたり、過去の出来事を何度も思い返したりして、「今ここ」から意識が離れてしまうことがあります。
そのようなときには、呼吸をゆっくり意識したり、周囲の音や景色、肌に触れる感覚など、自分の五感に注意を向けてみます。「今、この瞬間」に戻ってくることが、心を落ち着かせるきっかけになることがあります。
悲しみや怒り、不安などの感情は、無理に抑え込もうとすると、かえって長く続くことがあります。
「私は今、悲しいのだな」「かなり不安を感じているのだな」と、自分の感情に気づいてあげることから始めてみましょう。日記を書く、誰かに話す、文章や絵にしてみるなど、感情を安全な形で表現することも一つの方法です。
私たちは、つらいときほど自分自身に厳しくなってしまうことがあります。
「もっと頑張らなければ」「こんなことで落ち込んではいけない」と自分を責めるのではなく、親しい人が同じ状態だったらどんな言葉をかけるだろう、と考えてみてください。休む、好きな音楽を聴く、ゆっくり入浴する、マッサージを受けるなど、自分をいたわる時間を持つことも大切です。
感情が強くなったときには、その感情の勢いに任せて行動したくなることがあります。
しかし、ときには「今したくなっていること」とは反対の行動を、あえて選んでみることが役に立ちます。怒っているときにはすぐに言い返さず、いったんその場を離れる。衝動的に行動したくなったときには、少し時間を置く。「感情があること」と「その感情のまま行動すること」は、同じではありません。その間に少し余白をつくることが大切です。
気持ちが落ち込んでいるときには、「自分は何をやっても駄目だ」「きっとすべてうまくいかない」といった否定的な考えが強くなることがあります。
そのときには、その考えが本当に事実なのか、一度立ち止まって考えてみます。「本当にそうだろうか」「別の見方はできないだろうか」と問い直すだけでも、少し違った可能性が見えてくることがあります。もちろん、考え方を無理に前向きに変える必要はありません。まずは、自分の考えを一つの「見方」として眺めてみることが大切です。
気持ちが非常に不安定になったときには、その場で一から考えることが難しくなる場合があります。
そのため、あらかじめ「つらくなったときに誰に連絡するか」「どこで安全に過ごすか」「どのような支援につながるか」などを決めておくことも大切です。一人で抱え込まず、家族や信頼できる人、医療機関など、助けを求める先をあらかじめ考えておくことが、自分を守ることにつながります。
7つの方法のうち、どれが一番優れているというものではありません。気分や状況によって、役に立つ方法は変わります。今日は音楽を聴くことで少し楽になれるかもしれませんし、別の日には誰かに話すことが必要かもしれません。
また、何もする気力がないときには、「深呼吸を一度してみる」「温かい飲み物を飲む」「少し横になる」といった小さなことで十分なこともあります。コーピングの目的は、つらい感情をなくすことではありません。「つらいときに、自分を少しだけ支えてあげる」――そのような小さな対処をいくつか持っておくことが、困難な時期を乗り越える力になることがあります。
そして、つらさが長く続いているときや、一人では対処することが難しいと感じるときには、無理をせず専門家に相談してください。
当院では、症状そのものだけではなく、その方が今どのような状況にあり、何に困っているのかをお聞きしながら、一緒に考えていくことを大切にしています。ご本人だけでなく、ご本人を支えるご家族のメンタルヘルスも重要ですので、ご家族だけでのご相談も遠慮なくお申し付けください。
| 医院名 |
|---|
| 宮木医院リオムメンタルクリニック |
| 院長 |
| 宮木 幸一 |
| 住所 |
| 〒536-0022 大阪府大阪市城東区永田4-8-10 |
| 診療科目 |
| 心療内科・精神科・一般内科 |
| 電話番号 |
| TEL:06-6180-4111 |